<5> 猫 DISH//
あれから何日たったのだろう。
友美とは、あの日以来会っていない。
あの日から俺は変わった。
いや、元の自分に戻ったのだ。
美香に出会う前のごく普通の生活を送っていた自分に。
君がいなくなってから、気づいたことがある。
朝起きれない俺はいつも美香が起こしてくれた。
いつも朝は卵焼きとみそのにおいがしていて、いつも俺が起きる前に準備してくれていたね。
美香がいなくなった最初のころは、全然起きれなくて、
いつも遅刻ギリギリだったけど今ではちゃんと一人で起きれるようになったよ。
でも朝ご飯を作るのはやっぱりちょっと大変で、いつもさぼって昨日の残りのお惣菜とか食べてるけど。
朝起きて歯を磨くとき、いつもすこし手が止まる。
俺の部屋にはまだ歯ブラシはふたつ置いてある。
毎回捨てようとは思っているけど、そう思うだけで捨てはしない。
そして、朝の支度を終え、一人で朝ご飯を食べる。
美香がいなくなってこの部屋がこんなにも静かだったことに初めて気が付いた。
俺はその静けさが嫌で家にいるときはいつもテレビをつけるようにしている。
これも今では当たり前になっている。
俺はだれもいない部屋を出ていき、仕事へ向かう。
ある程度頑張って、ミスしないように、怒られないように、それだけやれば十分だ。
「悪い、この仕事今日中によろしくな。」
「え、今日中ですか?」
「そうだよ。よろしくな。」
今日も残業か…。
家に着くときはもう夜になっていて、
家に帰ったら、すぐに寝てしまう。
最近はいつもこんな生活だ。
君がいなくなっても普通に生活できている。
俺は、友美と話してから、
美香のことを考えるのとやめた。
美香のことを知ろうと思うこともやめた。
だって、美香のことを知ったって、美香が戻ってくることはない。
だから俺は、
君がいないつまらない人生を歩むことを決めた。