<6> 猫 DISH//
俺は、いつも通り会社に行き、いつも通り仕事をしていた。
だけど、この日は、いつもを少し違った。
なんだか、体がだるくて、頭が回らない。
でももう3時だし、早退するほどでもないから今日は定時で帰らせてもらおう。
なんでだろ。
こんな時に限って、美香の顔を思い出す。
君のいない日常に慣れてきたつもりだったけど、
やはり、こんな時は君の顔を思い浮かべてしまう。
会いたい。
どうしてもこの言葉が思い浮かんでしまうのだ。
「お、おい。お前大丈夫か?」
上司が驚いたような顔で俺を見てきて、そう話しかけてきた。
「もういい、今日はもう帰れ。」
「でもまだ仕事が…。」
「いいよそんなん。まあ最近残業続きだったしな。そんなに疲れてたんだな。」
そんなに顔に出ていいたのか。
俺は体調も悪かったし、上司もそういってくれたので早退させてもらうことにした。
帰りの電車の中でも美香の顔が頭から離れなかった。
駅を降り、家まで歩いて向かう。
「おかあさーん、みてー!すっごいきれいだよー!」
そう、小さな子は叫んでいた。
俺は重い頭を持ち上げるようにして前を向き女の子の指さすほうを見ると、
そこには、きれいな夕焼けがあった。
あの日と同じ、きれいな夕焼けだった。
君と約束を交わしたと来た同じ。
俺が夕焼けに見入っていると、女の子が話しかけてきた。
「お兄さん、なんで泣いてるの?」
「え?」
自分のほほに手を当ててみると少し濡れていた。
俺は、自分が泣いていることに気がつかなかった。
「お兄さん、これあげるから笑ってー。」
そういうと女の子は自分のポケットから飴を一つ出した。
俺がその飴を大事に受け取った。
「ありがとう。そうだね、笑わないといけないね。」
そうだ。
美香と約束したんだ。
夕焼けを見た日は何がなんでも笑顔でいるって。
辛くても、悲しくても、泣きたくてもあの日を思い出して笑うって。